ゲームクリア感想75:人喰いの大鷲トリコ
てっきりキャンセルになったと思っていたので、去年か一昨年だったかのE3で久々の動画が出た時には安堵しました。
PS2版のICOを一周クリアしただけで、所謂「上田ゲー」にはこれと言った思い入れは無いのですが、これだけは発表当時から世界観やゲーム性に惹かれました。
クリア時間は15時間以内、ダウンロード版です。
あと、私にしては珍しく、この手の謎解きアドベンチャーでノーヒントクリアを果たしました。
【良かった点】
◎このゲームでしか味わえない体験
ここまでの大型生物と一緒に探索するゲームというのは(私が知る限り)無かったと思うので、新感覚でした。先へ進むためには建物の仕掛けを解くだけではなく、トリコという生物の力や身体を借りないと先へ進めないので、通じているかどうか心配しながら、トリコに呼びかけて謎の建造物を進んでゆく、というのがゲームの流れになります。
相手は動物なので当然言語のやりとりは出来ず、快適さという基準から見ると、意思疎通がなかなかうまく行かないのがイライラの原因となることも多々ありました。段差を登ってもらうだけで10分近く費やしたこともあります。
ただ、それ故にうまくコミュニケーションが通じた時は安心します。話が進むに従って警戒心も解け、ワイルドな愛情表現に驚いたり和んだり。序盤は反応に乏しいトリコも、仲が深まるにつれて積極的になってきます。
紆余曲折を経てラストを迎えた時、泣きはしませんでしたが、色々な想像力が働いて切ないものが込み上げました。
動物好きな人だけではなく、切った張ったのゲームに疲れてきた人にもお勧めです。
◎リトライとオートセーブが快適
ローディングがストレスになったことはほぼありませんでした。サクサクやり直せる部類だと思います。オートセーブタイミングも適切。
◎移動が基本スピーディー
普通の走りもそれなりに足が速く、かつほふく前進やハシゴ昇降や隙間通過などの、移動速度が下がりがちな場所でも比較的スイスイ進んでくれます。子供の身軽さをしっかり表現して、かつ快適さに落とし込んでいるのに感心しました。
正直、もっさり移動を覚悟していたのでこの辺の快適さは嬉しかったです。
◯ICOより簡単になった謎解き
頭の回転よりも観察力が重要になったと思います。ICOでは中盤あたりから早速攻略サイトに頼ったレベルなのですが、今作はさほど「詰んだ」と感じることもなく、ノーヒントでクリアすることが出来ました。
次へのルートが判明しても、トリコの誘導という別の問題が浮かんできますが……(後述)
コツは上をよく確認することかも知れません(これもカメラの問題があって後述)。
◯世界観・風景・MAP
ようやく表現したいこととスペックが合致した印象です。最新グラフィックのゲームに比べると劣るのは確かですが、このくっきりし過ぎない画面が幻想的な世界観に合うと感じます(手垢の付いた表現で恐縮です)。
MAP構成も、よくこんな複雑な立体構造を作り上げたなと思います。なんとなくの背景ではなく、遠景に見える(いずれ行くことになる)建造物もしっかり作られているので、これを作り上げるだけで相当な労力と発想力が必要なのは想像に難くありません。
◯生物のリアルな動き
少年の身体感覚を、ここまで細かく操作感覚に落とし込んでいるゲームは初めてでした。身体の小ささを動きの手数で補う、あの少年特有のピョンピョン感とか、勢い余って落ちそうになる読めない感とかが再現されていて、とっくの昔にそれを失った身としては新鮮でした。顔はあどけないけど身体は妙に骨太で頑丈なのも、何故かリアリティを感じます。また、架空生物なはずのトリコもリアルでした。動物にあまり熱心では無いのですが、鼻を鳴らして少年の臭いを嗅いだり、水場から上がったら身体を震わせてドリル状態になったり、少年が離れた所でこっそり用を足したり(肛門まで作り込まれている)と、挙動については大抵の人が現実味を感じると同時に親しみを覚えるのではないでしょうか。ちょっと顔が怖いけど……
【気になった点】
×案の定その1…コミュニケーションエラー
あえてそうしたのだとは思いますが、トリコが指示通り動いてくれないことが多々あります。ただ口で命令するだけではなく、まず自分がやってみて、それから指示を出して、うまく従ってくれたら(身体を撫でるなどして)褒めるという、山本五十六の名言を体現する必要があります。幻想世界の中で。あっさり従ってくれるか、自動で思い通りの動きをしてくれることの方が多いですが、場合によっては「正解ルートは見当がついているのにトリコが動いてくれない」という状況で数十分詰む可能性があります(完全に詰むことは無く、時間がかかるだけ)。
また、トリコ自身が身体が大きいので移動も遅く、余計に時間がかかりイライラ……
特に中盤以降のとある水場では45分近く悩まされ、そこで一気に不満が募りました。
(軽くでいいから一旦潜って、すぐにトリコを掴むと進めた)
こういうイライラを含めてのゲームデザインなんだろうと想像していますし、ペットを飼っているから特にイライラする事はなかったという評価も見かけました。
でもこうなった場合の解決策は、運に頼るか時間に頼るか粘り強く試行錯誤するかしかなく、ゲームとしては、もう少し何とかなったんじゃないかというのはあります。
×案の定その2…操作性
発売前プレイ動画を見るたびに「操作に癖がありそうだな」とは感じていたのですが、その通りでした。直前に遊んだFF15もそうですが、やたら慣性が強くて思った通りに立ち止まれず、狭い足場ではハラハラします。
それよりも問題なのがトリコ周りで、トリコの身体に乗っかっている時の操作性が悪いです。「身体から下りて着地」といったアクションも一苦労です。大抵、何度かトリコの身体を掴んで、最終的にはボテンとみっともなく落ちます。
また、トリコの身体を利用して高い所に飛び移る際、頭を上って飛び移るのですが、何故か明後日の方向に飛んでしまって上手く飛び移れず、そうこうしている間にトリコが身体を下げてしまい指示の出し直し……というのも珍しくありません。
各種モーションがリアルなのは凄い一方で、これは最後まで気になりました。
×上下カメラの硬さ
垂直軸の観察が重要なゲームでこれは痛いです。多分「背の低い少年の視野」の表現として、上を高く見上げる時は反応を悪くしているのでしょうが、仮にそうだとしてそんなにリアルな表現とは思えないし、ゲームとしてのストレスのほうが大きかったです。
そういう意図はなくてただ反応が悪いだけなら論外です。オプションでも大した調整は出来ず。
【まとめ】
短気な人や「あえてそうして(制限して)いる」を許容できない人にはイライラゲーで終わってしまいかねないと思いました。トレーラーやレビューなどの良さ気な雰囲気に釣られると残念な思いをしかねない、賛否両論な内容なので注意が必要だなというのが正直な印象です。
私自身、二周目をしたりプラチナトロフィーを取得したりするほどのモチベーションは現時点でありません。またトリコのAIと格闘すると思うと……
ただ、このゲームに期待されていた世界観やトリコとのふれあい、ストーリーなどは想像以上に良かったです。
私は「上田ゲー」にセンスは感じても深い愛着がなく、寧ろICOラストのセーブポイントが無い鬼畜エリアでキレかけた記憶があるので、巷の評価ほど好きなクリエイターでは無かったのですが、今作ではそこまでマイナスな感情は抱きませんでした。
しかし、このゲームで注目されるべきなのは、一人のスタークリエイターよりも、本編のストーリー並みに紆余曲折を経たゲームを完成させた制作陣だと思います。
ほとんど情報も出せず、聞こえてくる評価といえば「今年も留年確定」「もはや時代遅れ」「エア開発」みたいなマイナスなものが目立った中、完成させて2016年内にちゃんと発売したので……
開発実態は知る由もないので、想像の範疇しか語れないとしても。
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